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狸系の里 シーズン2

はじめの一歩、二歩、散歩・・

OneDrive試用中

数年来、情報民族音楽学というキーワードに中身を盛るべく右往左往していた。どこに顔を出せばよいのか皆目見当がつかなかった事もあり、100頁位のノートを8回も改版して、未だにいまひとつ自信がない。しかしいつまでこうしていてもらちが明かないので、ある着地点に辿りついたのを契機に、文書をクラウドに公開してみようと思った。

 

着地点は概ね次の通り。

  1. Seegerによれば、民族音楽学とは、音楽学民族学言語学の共通部分に成立する。情報民族音楽学の特徴は、焦点を当てている音楽について、これを継承するコミュニティが音楽を継承するために使う言葉に注目することである。

本研究では音楽を継承するために使われる言語は次の構成をとると考える:

音楽を継承するための言語=<遍在する記号からなる構文系、偏在する意味>

この言語を具体化する上で大切なことは、継承する音楽を遍在する記号を使って、誤りなく・曖昧さなく、表現する言語を創作することである。

この偏在する意味を誤りなく・曖昧さなく表現するためには情報科学の知見が有効に使えるはずであり、この意味で、本研究を情報民族音楽学と呼ぶ。

 

この研究では出発点に、これまでの柵からは自由に考えて、情報科学と音楽との接点を探ることを置いた。全く制約なしに考えられるということは、自由であると同時に、全てを自分が決めなければならないという制約が課される。この制約は意外に重く、譬えて言えば、考え始めた当初は生コンクリートにもならない、セメントと小石と水を集める所から始めることとなった。8回書き換えたがどのように受けとめられるかについてはまだ確信がもてない。

公開場所はOneDrive上にあって、リンクは次の通り。

https://1drv.ms/f/s!AtMSi1_sj0qqbGtB6kpGGbyh3U4 

私的なメモという位置付けでの公開であり、編集は出来ない設定になっています。

 

現状、この先を続けられるかについては不透明さがありますが、もし続けられるなら、書きものはOneDriveに載せてゆくつもりです。OneDriveの使い方自体よく判っていないので思わぬ不備もあろうかとも思いますが、ご連絡等はここに載せて頂ければ、と思っています。

但し、このOneDrive上の文書自体は期間限定公開のつもりです。

始めの一歩

ここ数年、音楽と情報科学との係わりをあれこれ、とりとめもなく書き続けてきた。そもそも何をしたいのか、というレベルの話なので形もなにも無かったのだが、八回書き換えればいい加減に形が整ってくる。纏めと附録の目次を見ていて、これがそのまま具体的な内容の要約になっている事に気付いた。あとはこの線に沿って進む事になる*1

 

7章まとめ

情報民族音楽学と呼んできた活動は、音楽をありのままに記録することを目的とする。

7-1)ありのままの記述とは、音楽を継承するコミュニティが音楽に対して持つ常識を、その常識に忠実に記述することを言う。音楽に関する言葉づかいは、音楽の歴史にそって、コミュニティの中の常識を指すようにできていると考えられる。そのため、コミュニティの内側でのコミュニケーションと、コミュニティを横切るコミュニケーションとでは、言葉づかいが変わる事を想定しなければならない。

7-2)工学的な意味でのコミュニケーションは、記号の交換に係わり、記号が指す意味の交換には係わらない。コミュニティを横断するコミュニケーションは、コミュニティが歴史的に形成してきた意味づけが関連するという意味で、異文化交流と似た側面をもつ。

7-3)音声認識/音声理解技術は、工学的な意味でのコミュニケーションの範疇に含まれるも、言葉の意味の扱いが係わる。1970年代の音声認識/音声理解技術は論理的な基礎の上で言葉の意味を扱う(意味を扱う理由が主に探索空間を制限するためであったとしても)方向で試行していたが、意味を扱う一般的な枠組みを実現できなかった。1980年ころ以降は、大語彙と統計処理とを基礎とする方法が音声認識/音声理解の主流となる。

7-4)コミュニティが維持し発展させている常識(これをデータ化したものをDOMAINと呼んでいる)は、コミュニティの活動を通して自然に導入され、論理的な基礎に対する自然な制約を与える。コミュニティの活動を時間的に追って変化を記録することは、音楽を記録する上で大切な作業であるが、同時に時間的な軸を導入することにより、使える語彙の大きさが制限される。以上から、音楽の資料を収集する基礎には、論理的な方法を再評価することが望ましい。

7-5)情報民族音楽学という用語に現在は意味がなく、すべての内容が将来の課題となる。当面は実施のための基礎作りを行い、基礎が出来た段階で、記録の対象に選んだ音楽と並行する活動をとおして記録を薦める事になる。実施のための基礎作りには次のことが必要になると考えている。

  1. ともかくデータの事例を作る事。伝統邦楽譜は音楽の流派毎に特有の記譜法が使われている(附録1)ので、典型的な例をデータ化して、必要な技術を選択する。
  2. 個別の例題について、具体的な問題点を収集する事。催馬楽譜「安名尊」の墨譜をWordで書きなおした例(附録2)を作ってみた。構造があることから標準的な文書ファイルでなく、頁単位に図形として描画している。折れ線のように描かれている音の抑揚をWordの図形の範囲で表現する方法、手書きの墨譜に書かれた文字・図記号を包摂する基準と方法に問題点があった。図形として描画する方法を採用せず、XMLのような記述言語を設計するという方法があり得るが、この場合、設計・実装・維持の全てに渡って開発者に責任がかかる。
  3. 古楽譜に書かれている音の名前を具体的な音としてどう再現するか、という問題は、再現者の見解が係わる事がある。催馬楽については、基礎とする音階(旋法)が陰か陽かという問題があると言われている。これは、再現された音を五線譜に書くときに、音に半音の違いが生じる結果をうむ。再現された音を記録する方法は、記録する方法がもつ枠組みの影響を受ける。民族音楽を五線譜で書きとるための追加記号が考案されている(附録3)が、この追加記号のもつ内容については明示されない。結果として、音が判らないと採譜結果を理解できないことがあるのではないかと思われる。
  4. 附録4以降は基礎づくり以降に関連する可能性のある分野(附録4、附録5)と、筆者の個人的な背景(附録6)とを収録している。

 

以下、目次の抜粋:

7章まとめ

7-1.コミュニケーションと意味との関わり

7-2.シャノンの通信理論

7-3.音声会話の機械認識

7-4.DOMAINが保持する意味と統計モデルとの適合性

7-5.次の課題

附録1 伝統譜の形

附録2 WORDによる催馬楽譜の作図結果

附録3 2章附録 民族音楽に固有の現象を記述するための追加記号

附録4 4章附録 木言語と木言語変換系

附録5 人文系情報処理技術に関連する文献資料

附録6 予備的調査の結果

附6.1 音声信号分離に関する研究

附6.2 兼常清佐日本民謡研究

*1:とはいえ、いろいろな無理が重なってきているので、ここに書いたように進められるかについてはちょっと悲観的になっている。

ちょっとした発見

催馬楽歌の五線総譜を見ていたら面白い事に気付いた。

催馬楽歌には九つの音を使う。このうち、補助的な音が二つ、臨時に使う音が二つ、残りの五つが正音として使われる。この九つの正音を五線譜に並べて音階が書いてある。

この九つの内、正音五つを並べると五音音階風の音階が書ける。この音階は次の構造をもつ。

  1. レ‐ファ‐ソ‐ラ‐ド‐レ

五線譜の用語で音程を書くと次のとおり。

  1. レ‐[短3度]‐ファ‐[長2度] ‐ソ‐[長2度] ‐ラ‐[短3度]‐ド‐[長2度]‐レ

音を三つ単位で纏めると、次の二組が得られる。

1) レ‐[短3度]‐ファ‐[長2度] ‐ソ《‐[長2度] ‐》

2) ラ‐[短3度]‐ド‐[長2度]‐レ

民族音楽学の分野にテトラコードという概念がある。テトラコードには次の四つが区別されている。但し以下は「一目でわかる日本音楽入門」から引用しているので、出発点の音がレでなくドになっている。

  1. a) 民謡のテトラコード ド‐[短3度]‐♭ミ‐[長2度] ‐ファ
  2. b) 都節のテトラコード ド‐[短2度]‐♭レ‐[長3度] ‐ファ
  3. c) 律のテトラコード  ド‐[長2度]‐レ‐[短3度] ‐ファ
  4. d) 沖縄のテトラコード ド‐[長3度]‐ミ‐[短2度] ‐ファ

音程だけに注目すると催馬楽歌の正音は民謡のテトラコードを二つ積み重ねたように見える。

 

音階という意味では、呂・律、陽・陰の区別が知られているが、このどれについても、はじめの二つの音の間隔は2度なので、構造が合わない。

 

催馬楽歌は民謡を雅楽の様式で編曲したものと言われているので、民謡のテトラコードが使われていても不思議はないとも言えるが、安直な判断は禁物ではある。

音楽文化の相互交流という夢について

信楽先生は文系でも理系でもない、双方に足を掛けた中途半端な位置*1にいる。こういう位置にいて音楽を知りたいと言っても、音楽について新しい事実を見つける能力についても、情報工学的な仕組みを作りだす能力についても、準備不足の感は否めない。では、何を考えているのか、と聞かれたときにどう答えようと思っているのか、というとこんな答えを考えている。

“-様々な音楽についてそれをありのままの形で書記す方法は何か-この問題設定は、大きく言えば、音楽文化の相互交流*2を目的とする情報科学/情報技術のあり方を知る事に繋がる。”

 

音楽は音による表現であり、いっとき聞くだけならば録音・再生技術があればよい。定着するにはもう少し詳しく知ることが必要になる。その時には、対象を、偏りなくありのままの形で、聞く必要がある。簡単なようだけれど、事はそれほど単純ではない。それは、聞き手の常識が、その人にとっての音楽について構成されていて、しかもその常識があまりに自然なので、その人にとっての常識が世界の常識であると信じて疑わない・・ことが往々にしてあるからである。

 

一例として、音楽を紹介するときに、「作曲家Aの作品B」と言うか、「演奏家Aの曲目B」と言うかを考える。テレビやラジオの歌番組では「演奏家Aの曲目B」と言うことはあっても「作曲家Aの作品B」と言うことはない。例えば「美空ひばりの港町13番地」は、「演奏家美空ひばりの、曲目・港町13番地」となる。国内でも西欧系の音楽では、逆に、「作曲家Aの作品B」と言うことはあっても「演奏家Aの曲目B」という言い方はしない。例えば「レオポルドモーツアルトの玩具の交響曲*3」は、「作曲家・レオポルドモーツアルトの、作品・玩具の交響曲」となる。この辺りは、音楽として継承される対象の違いを反映した、それぞれの領域の常識な訳なのだが、それぞれの領域で確立した常識であるだけに別の領域の常識は理解しにくいし、別の領域に向かって「それはおかしい」と言った所で意図したとおりに言葉を受取ってもらえる訳でもない・・

 

ありのままに書く、と言う時には、この、常識の部分にまで立ち入って書くこととする。それでも、前提とする常識なしに何かを書ききるのはとても難しいことになりそうなので*4、どこかで、これを出発点に使い、この出発点については問わない、という基点を使わなければならないのだろう。

 

この基点をどうするか、という問題を含めて、ありのままに書くという問題は、見かけほど簡単ではない。でも、基点の選び方についての努力をして、なんだかよく判らない状態に置かれたもやもやとした疑問が解決できると、日本の音楽をどこかの地域に伝え、逆にどこかの地域の音楽を日本に伝えて、伝えた内容が歪みなく継承され、世代を越えて定着する基礎を作ることにも繋がるのではないか、という夢を考えている。

 

当面、信楽先生が考えているのは、声楽という領域で、日本の上代の声楽とフィンランドの伝統的な歌とを並べてみたい(系統的関係を考え始めると大変なので、標語的に言うと、筝・和琴とカンテレを並べる、位に設定する)。

*1:狸系

*2:一方通行でなく、相互交流。

*3:W.A.モーツアルトの曲と言われた時期があった。最近の結果はよく知らないが、W.A.の作品ではないらしい。

*4:集合論の公理によれば全ての集合は空集合から構成的に到達できるそうなのだが、空集合から目的の集合に達するまでに必要となるステップは、もちろん有限で留まるとは限らず、いくつもの無限大の壁を乗り越えなければならないかもしれない。数学的に言えば、証明には超限帰納法に拠らなければならないこともある、ということ。

音律計測の具体的なイメージ

伝統邦楽の声楽譜というと例えば次がある。

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この譜は催馬楽歌ころもがえの出だしの部分で、「催馬楽朗詠墨譜集(薗広進監修、催馬楽・朗詠墨譜集、日本雅楽会、昭和54年8月)」より引用している。

 

慣れないと取り付く島もないので、日本音楽の入門的な解説書には、五線譜に採譜した例が載っていることがある。

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この譜は、日本音楽の歴史と観賞(星旭著、音楽の友社、昭和51年7月)より引用している。

 

墨譜の折れ線と五線譜とを歌詞の一字単位に比較すると次の表が出来る。ここで折れ線の線分を「博士」と呼んでいるが、これは仏教声楽の声明の用語を借りている。

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注記 五線譜パターンの項目は、上記参考の五線譜を調子記号に従ってニ調の移動ド唱法で書いている。(ソ)、(ミ)は前打音。

 

折れ線を構成する線分が一つの音の単位を表すとすると、この音の単位は小さなメロディを構成していることが見て取れる。五線譜で記譜されているが、各音符を実際にはどの音で演唱すべきか、考えてみるとよく判らなくなる。この辺りは伝統音楽の基準に則るしかないのだが、この基準が判ったとして、それをどう書きしるすかについては工夫が要る所だろう。

 

上代歌謡を五線譜に採譜する活動はずいぶん前に行われていて、催馬楽朗詠譜については既に出版物、芝祐泰編著、五線譜による雅楽総譜、巻一 歌曲編、カワイ出版ONLINE[ISBN9784760934010]がある。これと上記墨譜集とを比較すれば、伝統譜と採譜結果との比較をフレーズでなく曲単位で行って、比較を完了できるはずである。

 

で、ここまで辿りつくと、次は、各音の本当の高さは何かという問題が出てくる。民謡の採譜と違って催馬楽譜には音の高さが書いてあり、この高さには基準が決まっている。上記「五線譜による雅楽総譜」には、雅楽歌曲楽式便覧というセクションがあり、音の取り方が説明してある。

音を取る方法は、伝統的な用語で順八逆六と呼ばれる手順に準じるものであり、二つの音の高さを両端を含み間に挟まる半音の数で指定している。八というのは、二つの音を両端としてこの間に両端を含めて八個の音を含む音の組み合わせ、というとややこしいが、具体的には五度(ド、♯ド、レ、♯レ、ミ、ファ、♯ファ、ソ)を指す。

ここでドレミファソと♯とを使うと平均律で考えていると誤解されるが、そうとは限らない*1所が紛らわしい。

 

もう一つ紛らわしいのは、催馬楽歌は原曲なのか編曲なのか、という点であり、楽器で演奏するならともかく声で演奏する曲では音程の取り方が自由な分、書いてある音の高さは雅楽風に演奏する際の目安であり、原曲とはことなる・・・という可能性が出てくる。

 

もちろん、証拠がなければ全てが想像に留まる。この点が形が残らない音の難しさなのだが、だからこそ、測定値を積み重ねて何か言える事が見つかれば面白い。

 

 

*1:ピタゴラス音階の音律は平均律と異なるように

音律の測定に係わる三つのステップ

音律を測るという話は、最終的には、良い記譜法を求める話に繋がる。文字や図記号と同様、楽譜もそれ自身は図形(「インクのしみ」という言い方をされる事がある)なので、この図形を音楽と同一視するためには図形とそこから読みとられる内容との対応関係の決め方が大切になる。楽譜の場合、図形とその内容との対応関係は常識として言及されない事があるので、しかし楽譜の内容を知るためには対応関係を知る事を避けては通れないので、実際に行われる音の属性を測ってみることが望ましい。

 

音の属性を測るステップは、楽譜に書かれた内容と演奏された音とを比較して、楽譜を構成している記号がどのような音として具体化されているかを見る作業により構成する。使う資料の性質により、次の三段階が考えられる。

  1. 既存の資料に基づく確認作業
  2. 印刷内容を表示するための電子楽譜と、この電子楽譜に対応づける内容との構成
  3. 書かれた内容と演奏される音とが自然に対応する記譜法を創作する

 

上記A、B、Cは次の内容をもたせる。

  1. 既存の資料に基づく確認作業

専門書の範疇にあるとも言えるが、街中の普通の書店で催馬楽朗詠譜が市販されていることがある。また、演奏された催馬楽朗詠歌を採譜し、五線譜総譜の形式でまとめた資料が市販されている。捜せば、声明譜についても、伝統譜の形式と、採譜して五線譜総譜の形式にまとめたものとが市販されているようである。

このような市販の資料を用意して、ここから、伝統譜の音楽記号と五線譜への採譜結果とを対応づける表を作る。こうすると、伝統譜の記号とその記号が表す音との対応関係が見えてくるので、同じ内容の記号毎にグループ化ができると期待される。

 

  1. 印刷内容を表示するための電子楽譜と、この電子楽譜に対応づける内容との構成

伝統譜を電子文書として再現する技術を創作する。この電子文書は追って、演奏されたときの音のパターンを対応づけるための土台として使う。また、様々な時代の伝統邦楽を上演した際の記録がCDの形式で市販されていることがあるので、伝統譜の演目が演奏されている記録を入手し、ここに記録されている音の特性を計測する。

音の特性を計測するには事前に次の準備を行う。

  1. a) 文献に基づき、音の高さの理論値を求める。

 音の高さの基準から作られる音の理路的な高さを計算して表を作る。

  1. b) 記録されている音の物理的な特性を計測する。
  2. c) その音楽で一つの音像を作っている音の属性の組に配慮し、聞こえ方のモデルを作る

 

  1. 書かれた内容と演奏される音とが自然に対応する記譜法を創作する

書き方を工夫しながら、聞こえ方のモデルを読みとりやすい記譜法を創作する。

 

今の所Aに居る。聞こえ方のモデルまで辿りつけるかどうかは全くの未知数・・;

音律を測定してみたい

音律という言葉は、ここでは、楽譜に書かれた音の実際の高さという意味で使っています。日本の音楽では、楽譜上は宮商角徴羽という五つの音が使われているように書かれています。ただ、楽譜は目安という位置付けにあるので、実際の演奏で聞く事が出来る音は違っているかもしれません。例えば、ビブラートのような修飾がついていたら、修飾する音はどの範囲から取るか。実際、上代歌謡を五線譜採譜した印刷物を見たことがあるのですが、その解説によれば使われている音は、四つの補助的な音と合わせて九つとしていました。

 

ところで、五線採譜があればそれ以上の何がいるのか、と思いたいところだけれど、次の問題があります。音の高さは五線譜から読みとれる高さでいいのか?五線譜には五線譜の約束事があり、一点ラの音を430Hzとして、各音符を(不等分)平均律で調律して、決まった高さの音が書いてある事になっています。この約束事に無条件に従ってよいか。言葉で物事を書きとめる以上は避けられない問題なのですが、対象と言葉とは整合しているのか?そこで、どうしても、書籍を読むには前提となる世界を了解しておかなければならない、ということになり、了解する手段としていろいろと計測してみたくなるわけですね。これは元物理屋さんの性。

 

伝統邦楽の音律は三分損益法で決まります。三分損益法は、基本となる音を、管あるいは絃で決めます(以下は管として説明)。この管から三分の一を取り去ると、振動数が1.5倍(3/2倍)の音が鳴ります。三分の一を加えると、振動数が0.75倍(3/4倍)の音が鳴ります。そこで、基準の音の管を選び、ここから三分の一を取り去った管を作り、その結果に三分の一を追加した長さの管を作り、・・・という操作を繰り返して基準の音を出す管を作ってゆきます。そうすると、基準の音をドとすると、順次、ソ、レ、ラ、ミ、・・・、の音が作られる・・

はずなのですが、この操作、12回を越えて何回繰り返しても、数オクターブ上のドには絶対に辿りつけません。理由は、数オクターブ上のドの音の振動数は元の音の振動数νと2のオクターブ数乗(ともかく整数)とを掛けた数字になりますが、管の振動数は3/2をいくつかと3/4をいくつかを掛けた数になります。結局奇数/偶数を掛ける事になるので、この数が整数になる事はない。

結局、上に書いたソ、レ、ラ、ミ、・・・の音は、三分損益法によるソ、レ、ラ、ミ、・・・であり、五線譜で書きとめた時の前提となるソ、レ、ラ、ミ、・・・と(ドの音を合わせた時ですら)一致する保証はない、ということになります。言葉で説明するときに、前提に関する理解が違っていると、全体に関する理解が違ってしまう一例ではあります。

 

ところで三分損益法はピタゴラスの音階と呼ばれている音階と同じものになり、「音階」という言葉がついていると現在の音階の先祖と思いたくなるのは山々なのですが、現在の音階と直接繋がるものではありません。現在の音階に繋がるのは、アリストクセノスによる二つの四弦琴を使った音階で、これが教会旋法につながり、不等分平均律(半音が二種類ある)に繋がり、更に現在の等分平均律に繋がるという音階の歴史があります。現在の五線記譜法は等分平均律の一つ前の、不等分平均律とよく調和する記譜法だそうです。そうなると、日本の音楽を五線採譜した結果は、日本の音楽の約束に従って読まないと本来の内容を読みとれないことになるのですが、五線採譜をした資料には調律法という形で音の高さが書かれています。ただこれは、実際の楽器をもち、調律法を知った人でないと取り付く島がない。

 

という訳で測定してみたくなるのですが・・

 

日本の音楽は長期にわたり専門家集団により継承されてきたので、素人が安直な計測をして、専門家集団の了解なしに計測結果の解釈を安易に公開できるものではないことは確かです。できる範囲は可能性を示す所までであり、本番の計測は継承してきた専門家集団が行うのが筋なのだろうなとは思いつつ。