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狸系の里 シーズン2

はじめの一歩、二歩、散歩・・

夕暮れの街角(2) 居酒屋にて

1.プロローグ

妖しの世界では時間の進み方がこの世と違うなどと申します。この世界ではずっと昔に滅びてしまった生き物たちが栄えている海岸があるとか。そうすると、妖しの世界にも不届き者がいて、この世界との時間差を利用してひと儲けを企む輩が出てくるという。

 

2.狸原商事の極秘プロジェクト

「大将、ひさしぶり!」

「おや、狸の旦那、お久しぶり。最近とんとお見限りだから、どこかいい穴場を見つけたのかとおもっておりました。」

この大将、田貫が本名だが、もっぱら狸で通っていて、ちょっとした顔ではある。

「やだな、大将。この狸、そんなに薄情者じゃありませんぜ。それどころか、今日はとびっきりの珍品を持参した位で。」

「それはそれは。で、モノはなんです。」

「これなんですがね。」

と言って、信楽の旦那は大小二つのクーラーボックスを取り出した。大きいほうにはなにやら60センチ程の海老のようなものが、小さいほうには2センチ程の蟹のようなものが入っている。

「狸原商事が食品関係に進出しようという極秘プロジェクトがありまして、その戦略商品にしようというのがこれです。こいつらただものではありませんぜ。世間では化石でしか知られていないという代物ですから。入手場所ですか、ちょっとそれは、企業秘密ということで。何しろ知れたら、ワッと人が押し寄せるのは確実ですから。

この海老みたいな奴、アノマロカリスと呼ばれていますが、大きいでしょう。こいつ、海老というよりはむしろシャコみたいな形をしてますが、ともかく大きい。60センチはありますからな。このパイナップルみたいな形をしたのが口です。堅い殻も砕くと言います。取り扱いには十分気をつけて。

この口の脇の二本が足で、試作した所ではこれだけで一寸したエビフライ級の揚げ物ができました。

こいつ、変なやつで、足はこの二本しかありません。代わりに胴体の脇についている鰭をひらひらと波のように動かして泳ぎます。だから、エンガワがよく発達していて、平目なんか目じゃありませんぜ!

 

レース蟹は小さいですからな、薄い衣をかけてカラッと揚げて、かき揚げにしてみました。薄ごろもを通して蟹の赤みがピンクに透けて、なかなかの仕上がりでしたな。

え、納品実績があるか、って?何分、今回初めて扱うほどの珍品ですからな。ここでご試食いただいて、商品になりそうなものなら徐々に取り扱いを増やそうと言う。。。」

 

3.大試食会

なんやかやで、まずはともかく試食会を開催しようということになった。早速、狸の旦那は狸原商事と連絡をとり、極秘に試作した料理を取り寄せる。

「大将、お手数をおかけしてすんません。やっと届きました。

こっちが海老もどきさんで、これがムニエル、これがメダィヨン、メダィヨンというのはメダルのことです。車えびの身を茹でたものを輪切りにして、メダルのように飾ったもの、というのは釈迦に説法ですな。こっちがほぐした身をたっぷりと入れて炊いた海老ご飯です。それからこれが、レース蟹の掻き揚げ丼。お持ちする以上お料理はしっかり味見させていただきました。味には狸判押します。」

というわけで、たまたま居合わせた客に当日の大サービス、という触れ込みで、狸原商会特製の珍品料理がふるまわれたそうな。そして、味については大好評だったらしい。

 

4.エピローグ

それにしては、狸原商事はそのまま消えてしまったのだが、どういうことか。翌日になって、この大試食会に参加した客のすべてが狸腹に変身していることが発覚した。問題解決に奔走しているうちに、この珍品プロジェクトは解散し、狸の旦那はどこかに雲隠れしてしまったと噂されている。それにしても、たまたま居合わせてしまったばかりに、信楽さんは突然狸腹体形になって、その影響は未だに続いている。