狸系の里 シーズン2

はじめの一歩、二歩、散歩・・

夕暮れの街角(3) 人生の黄昏時

「あと2年か、長いようであっという間だったな。」

たそがれ時の街を家路に急ぐ田貫さんは、足をとめた交差点でふとつぶやいた。

 

田貫さんは今、とある大都会の片隅で、言の葉を綴り合わせて織物とし、劫を経たものはこれを繕うお仕事をひっそりとしている。ひっそりと?田貫さんとて苔むした狸ではあるが、彼のまわりには圧倒的な大狸・古狸がそこかしこと生息していることもあって、ただひたすら、目立たぬように、息を潜め、時を過ごして今に至っている。

 

昔々、田貫さんがお師匠宅にお世話になっていた頃、不注意にも、大切な自分自身の存在証明を見失ってしまった。やがてお師匠宅から独立するにあたり、自分自身がまだ見つからないとも言えぬまま旅立ってしまったのだが・・・

 

あれから数十年、その時の思いを心の片隅に引っ掛けたまま、いつか時は過ぎ去り、思いを育てる機会に巡り合うこともなく、この街を去る日があと2年先と近づいていた。

 

「このままでは心の中の思いたちが日の目を見ることなく終わってしまう。どこかに書き留めておく場所はないものか。」心の想いがいつか言の葉に変わり、田貫さんはこんなことを呟いていた。

 

けものみち

 

狸の道に先はない

今つけてきた足跡が道になる。

 

たとえ枯れ草の茎が肉球を突き

草葉の縁が毛皮を傷つけても、

よく舗装された安穏な道を行き

不慮の災難で轢死することを思えば、

けものみちを歩むこの痛みも

あえて受け、進むべきもの。

 

ああしかし、いつか人の輪に出会い

化けるのも忘れ、飛び出してその傍らに立ち、

白々と夜が明け、日が昇り、そしてまた沈むまで、

語り合う時を夢に見る。

 

はるか彼方にその夢を見つつ、

今日もまた歩む、けものみち