狸系の里 シーズン2

はじめの一歩、二歩、散歩・・

年のはじめに

これまで情報民族音楽学という言葉を言い続けて来たが、多分にイメージが先行していた。今年はこの言葉に具体的な意味をつけたい。まだ松の内に今年の抱負などを書いておこうとは思っていたが、いつのまにか正月二日(書き初めの日)は過ぎてしまった。いつもの事とはいえ、時期を外したり忘れたりしないうちに、ともかく書く。

 

情報民族音楽学という言葉を具体化するために、クリアすべきゴールを明確にする。次の枠組みを想定している。現状、企画案であり、この案に沿って結果を出すことになる。

1) 用語の定義

情報民族音楽学という言葉は、情報、民族音楽、音楽学という、良く知られた言葉を並べてできている。各言葉には既に充分な程に成果が積み重ねられているが、独自の意味づけもある。そこで、これから文書を作成するにあたり、文書内容の誤解を避けるために用語に関するルールを作る。

・独自の意味づけで使っている用語については定義をつける。

・定義せず使う用語には、内容を確認できる説明をつける。

・これから作る文書では、このルールに従って用語を使う。

用語の例】情報民族音楽学の活動は、次を含むものとする。

  1. 断片的に継承される音楽資料から仮想的に音楽を再構成し、音楽資料を確認する。
  2. 同時にこの資料にから、音楽を時間的・空間的に継承するための資料を導く。

2) 研究対象の概容

情報民族音楽学という言葉の下で、ここで手掛ける対象としては、伝統声楽を選ぶ。伝統声楽は口伝により継承される。楽譜が継承される場合でも、実際に上演される音楽は楽譜通りではなく、伝承者による解釈が付け加わる。従って伝統声楽を仮想的に再現するために、次の活動が要請される。

伝承される資料を整理し、次を情報モデルとして構成する。

・規範としての楽譜

・伝承者による解釈

・演奏を含む、継承のための資料はこの情報モデルから導くこととする。

ここではこれらの情報モデルを構成する枠組みとして楽譜の形式的意味論を使う。楽譜の形式的意味論に関連して次の課題3)、4)が派生する。

3) 楽譜資料の形式的意味論

伝統声楽を含む伝統邦楽にはそれぞれの流派・宗派毎に独自の楽譜がある。これらの楽譜は口伝に際して規範として位置づけられるが、継承時には継承者の解釈が加わる。継承される音楽が多様化して、整理の必要が認識されると、記譜法自体が改版されることがある。(例えば仏教声楽である声明の記譜法は、博士、仮譜、などの変遷が知られている。)

楽譜資料を形式化するという課題には、次の課題が含まれる。

・多様な記譜法に対応する

・情報処理システムに渡す入力データを作る基とできる

ここで楽譜資料を渡す先の情報処理システムには、自動演奏システム、楽譜の清書システム(楽譜資料の翻字機能)、などが想定できる。ここでは楽譜資料を形式化する課題は形式意味論の枠組みに基づいて展開するものとする。情報処理システムが楽譜記号に要求する特性値を楽譜記号がもつ意味とする。

4) 音楽音の特徴とその抽出方法

音楽音がもつとされる特性は、音楽の表現に依存して選ばれる。五線譜は音楽音がもつ特性として「高さ、長さ、強さ」を仮定している。伝統声楽に限らず、柔軟な表現が可能な声がもつ特性として「高さ、長さ、強さ」は充分ではない。月に憑かれたピエロでシェーンベルクは声の音符について、「指定の音高に達して、直ちに離脱し、語りの表現を取り入れた歌を目指す」という注釈を付けている。

伝統声楽について、文書資料と音楽音との双方から、音楽音を規定する特性を定め、これを抽出する方法を考案する。

5) テキスト読み上げ技術によるアプローチ

伝統声楽は歌うというよりは読む表現に近い。そこで、テキスト読み上げ技術を基に、伝統声楽を仮想的に再現するための情報モデルを構成する。

6) 音楽の情報モデルを運用し維持する技術

音楽を仮想的に再現するための情報モデルを音楽の継承を支援するために使う。そのための情報モデルは、長期に渡って、多様な使われ方ができるものとしたい。

ICT技術は変化を前提とする技術であり、長期に渡って、多様な使われ方ができる情報モデルを実装する技術とは整合しない点に配慮し、様々な案を検討する。

 

 

注記

伝統邦楽は楽器の音楽より声の音楽が優勢であり、声の表現には、歌う表現と語る表現との間に多様な表現が見られる。声楽を選び、その特徴を捉えた情報モデルを構築して、洋楽のレシタティーヴォ(シュプレヒシュティンメ)を含む声の表現と比較しながら伝統声楽の特徴を理解するための基礎として使えるようにする。