狸系の里 シーズン2

はじめの一歩、二歩、散歩・・

これから

今は五線譜で書ける音楽なら、五線譜打ちこみで音楽を再現することができる。このやり方で伝統邦楽を再現しようと思うと、いろいろな問題にぶつかる。問題の解決には意外にコストがかかりそうなことを考えると、在職時に、こういう問題には(投資を回収できるだけの)市場がない、という反応があったのも無理はない。そうは言っても具体的にどういう問題が起こるか、考えること自体には意味がありそうなので、一寸書いてみる。

 

まず、伝統邦楽には楽譜というものがない。あるいは、歴史的文献資料として楽譜*1が伝承されている。伝承されている楽譜には、この口伝の内容を注記して印刷されていることがある。この注記付きの譜には大きく分けて、メロディを注記するための記譜法 *2 で書かれた譜と、歌詞として書かれた文字の発音法を註解として記入した譜とがある。さらには、どのような伝統譜であれ、その楽譜に書かれているとおりに演奏されているとは限らない。伝統邦楽は口伝が原則であり、楽譜の読み方は口伝により伝えられる。楽譜の打ち込みで音楽を再現しようとすると、この、口伝により伝えられる部分を再現する必要が出てくる。

 

この伝承譜から音を制作するには、楽譜に文字として書かれた音の高さと言葉の発音とを文献から確認し、この音の高さと発音とによって声を制作することになる。この伝承されている楽譜の内容を調べ、整理する作業には、関係する文献の収集、関係者からの聞き取りなどで専門的な知見が必要になる。こういう専門的な知見を要する作業を、曲毎に個別にやろうとしたら、要員確保だけでも大変なことになりそう。

 

そこで、共有できる資料はできるだけ共有しようと思うと、資料の共有に情報技術を使うことが考えられる。資料についてもう少し考える。

 

どのようなものであれソフトウェアを制作するには、次のステップを踏む。

1) 要件抽出

2) 外部設計

3) 内部設計

4) 実装とテスト

対象となる音楽の性質に係わる資料は要件抽出の段階で行う。

 

歴史的文献資料は閲覧に専門技能が要る*3ので、書誌学では、原則として写本を使い本当に必要な場合のみ原典に当たることを推奨している。この写本の位置付で楽譜文献の電子化を行う作業が、情報技術の適用場所の一案となる。

 

具体的にはJISZ6016、Z6017の規定に沿って、頁をイメージデータとして集積する。こうすると、楽譜のレイアウト構造を決める前に電子データを作成し、公開できる。写本に対する作業はすべて、イメージデータに対して行うとする。こうすると、資料の収集から公開までのステップの所要時間が短縮できるはずである。

この「写本」に書かれている内容を様々な観点からモデル化する段階で、テキスト処理、音響処理などの情報処理技術を適用することとする。

この「写本」に対する処理の結果には長期間参照されるものがある。例えば音楽の構造は、一旦書きだされれば、この内容を記述する言語の有効期限を越えて*4有効性が維持されなければならない。記述されたデータの有効性を超・長期間維持するという問題はICTにはない*5技術であり、この点については新しい発想が必要になる。

 

これからはこんな手順で伝統譜について調べて行こうかとも思っている。但し、あくまで個人営業の範囲で、研究の実施という程大きな話としてではなく、資料の使い方に関する一つのスタイルが示せればよいと思っている。

*1:独自の記譜法で書かれている。

*2:例えば真言宗の声明譜に見られる仮譜。

*3:紙が脆弱化しているので、頁を開くことが書物に影響を残す。歴史的文献資料は希少なものであり、傷つけることは許されない。

*4:例えば永久に。

*5:コミュニケーション技術は、データを、発信から受信までの期間保証すれば十分であり、長期の保存を考慮する必要がない。