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狸系の里 シーズン2

はじめの一歩、二歩、散歩・・

Successive Musicology

“Successive Musicology”という言葉は信楽さんの造語で、Googleでこの言葉を検索してもまだ出てきません。この英語を日本語に直訳すれば「継承に関する音楽学」ですが、信楽さんはこの言葉を、「情報民族音楽学」という日本語の訳語として使うつもりでいます。以下、この訳語の意図について。

民族音楽学ではフィールドワークという活動が行われ、ある音楽が純粋な形で残っていると思われる地域で音楽を収集します。この収集されたデータを分析検討して、音楽の地域的な流れを確認しようと試みます。例えば、北海道で歌われている江差追分は長野で歌われていた馬子歌に関連づけることができて、馬子歌の歌い手が松前船で信州から北海道に伝えたのだろうという説があります。従来の民族音楽学では、フィールドワークによって、音楽が歌い手によって運ばれて、もとの地域から他の地域に継承される跡を追跡する活動を行っていたと考えることができます。

他方一つの地域に注目すると、音楽は先代から次の世代、その次の世代へと継承されていまに繋がっています。この継承では、先代から継承したものに当代が創意を加えて、この結果を次の世代が継承します。催馬楽楽と呼ばれている日本の伝統的な声楽曲は、雅楽の理論が入って来た時に雅楽の理論に基づいて編曲された形で譜が作られて現在まで伝わっていますが、この例は、ある音楽を継承する段階で外国の音楽理論の影響を受けて造られた文書が後に伝わることがあるということを示します。

上記の二つの継承は、次のように纏める事ができます。

最初の例は、同じ時代に歌い手が地域を移動して伝える。いわば同時代、地域間の継承。

次の例は、一つの地域で代々音楽を伝える。いわば、時間軸上の継承。

もちろん最近のように人の国際交流が盛んになれば、異なる地域で時代を越えた継承が起こることもある。B.ブリテンの「カールー川」という歌劇は、ブリテン能楽「隅田川」を見たときの経験が一つの動機になっているらしい。

 

地域間の継承にしても、時間軸上の継承にしても、確認するにはまずデータが要ります。ここで、対象とする音楽の書きとめ方が問題になってきます。例えば次の二つの方法があります。

1)音楽の文書化はしない。音のみを保存し、その音の捉え方は聞く人に任せる。

2)音から楽譜を作り、楽譜を一つの拠り所とする。採譜はこの活動。

ところが考えてみると、音から楽譜を作るには対象としている音楽の音楽理論を知らなければならない。しかし対象とする音楽の音楽理論はこれから行う解析作業の結果として得られる。従って二番目の方法はこのままでは実行できない。ここを何とかしようという目論見の部分を表すタイトルが「情報民族音楽学」であり、何とかするための一つの方法として音楽の情報モデルを使おうという意図で、「情報」+「民族音楽学」としています。

具体的な方法として現在次のような手順を考えています。音響分析技術を使って音楽を分析し、まず音楽を作る基本的な要素*1について、値を確認するところから始めて、確認された値を使って記譜法を創作し、この記譜法で採譜する。

 

この方法をいざ動かそうとすると、音楽を規定する基準に関する文書資料がすべて歴史的な文献資料だったりします。これらは筆と墨を使って紙に手書きされているもの、と思わなければならず、まずはこのような文書資料から記載内容を取り出して、これを電子的にアクセスし易い形で整理することが必要になります。

音の高さは管や弦で決まっていて、こういう記載内容は書かれた通りに実験装置を作って物理的に追試できるはずです。こういう作業を伴う文書電子化作業は、歴史文書のテキスト化とは少し違う面がありますが、それにしても、Successive Musicologyの手はじめはテキストデータベース構築作業に似た活動になるのではないかと思ってもいます。

 

こういう、目的からちょっとかけ離れたところから入るには、簡潔な標語があると誤解されなくていい。そんな所も、Successive Musicologyという英訳を考えた理由に入っている訳ですが。

*1:音階を構成する音について音間の音程、各音の高さ。音符を構成する音の動き方。等。