狸系の里 シーズン2

はじめの一歩、二歩、散歩・・

黒い一反木綿のような譜

ペンデレッキの楽譜を見ると、半音の音程差で積み重ねた音を黒い帯のように書いているので、一反木綿が飛び交っているように見える。こういう楽譜は現代音楽固有かというとそうでもなく、音楽史シリーズ8「東洋民族の音楽」*1ポリネシアミクロネシアの節の譜例1-3(17頁)に、方眼紙の上に一反木綿が書いてあるような譜が載っている。

一反木綿という喩えは、密に積んだ音がちょうど糸を紡いで作った布のように見える事に由来する。数学的は波形を加算する事に相当するが、それぞれの音の位相(波が始まる位置)が合っているかずれているかで印象が全然違ってくる。極端な場合、波長を全て揃えてサイン波を合成しても、位相を完全に合わせて合成すればインパルスになり、位相を完全に乱して合成すれば白色雑音になる。ペンデレッキの譜と民族音楽の譜では、使う音が違ってくるので、譜面が一反木綿に見えても音はそれぞれの音色になる。ただ、音の編纂に関するアイデアには似たものが感じられる。

外野サイドから様々な音楽について、音の編纂に関するアイデアを比較してみると*2、使っている音こそ違え、音を編纂するアイデアは似てるなと思う事がある。シェーンベルクのワルソーからの生還者は前半が語り手、後半が合唱という構成になっている。この前半の語り手の部分は、五線でなく一本の線を書き、この線を基準にして高さの目安を示す位置に長さを示す音符が書いてある。日本と世界の楽譜3*3に掲載されている薩摩琵琶の譜(譜例6、205頁)、高さを示す横線が区切る欄に、大体の高さを示す位置に歌詞が書いてある、という譜がある。ワルソーからの生還者の譜で、音符の位置に歌詞を書くと、譜の形は似たものになる。

東洋民族の音楽によると、非欧州的な音楽の記譜法については、民族音楽学のシンポジウムで1964年に既に検討されているらしい。ただ、こういう研究成果は専門書として所蔵されて、アクセスできるかはよく判らない。まして、確認していないから断言できないが、記譜法が電子的に実装されていることは期待できないのではないか。

伝統邦楽は管理する流派が決まっているので、創作について部外者が何かを言うものではないが、もし音の編纂方法のアイデアが似ている音楽が見つかれば、何かの方向を考える上でのヒントになる事もあるのではないか。記譜法のような、基礎的な部分については、閲覧の便宜を図り、電子データを用意することにも意味がありそうに思える。

*1:東海大学出版会、昭和51年5月。

*2:つまり楽譜を見比べてみると

*3:NHK交響楽団編、小泉文夫監修