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狸系の里 シーズン2

はじめの一歩、二歩、散歩・・

中世以降の音楽と譜

手元に日本音楽史を図解した本が三つほどある。伝統的な邦楽はそれぞれ継承する流派があり、図解は流派の継承関係で示してある。例えば「日本音楽との出合い」の33頁、図2-2。これをさらに簡略化すると、次の流れを見てとれる。

・琵琶楽

上代の声明から琵琶法師による祈祷・物語が興る

→ 鎌倉時代の平家琵琶、後の盲僧琵琶、薩摩琵琶、筑前琵琶に繋がる

能楽、歌舞伎

上代の田楽が外来の散楽の影響を受けて田楽能・散楽能が興る

→ 室町時代能楽につながる

→ さらに江戸時代、劇場音楽としての歌舞伎踊歌が興る

→→ 歌舞伎音楽から長唄地歌が興る。

*→ 長唄は三味線を伴奏とし、地歌は三味線以外、筝、尺八、胡弓を使うものがある。

文楽義太夫節

上代の琵琶法師の琵琶楽から浄瑠璃を経て、劇場音楽としての文楽が興る。

*→ 文楽の音楽として義太夫節が興る。

・伝統邦楽と楽器

器楽合奏曲は上代の雅楽があるのみ。

伝統邦楽で楽器は主に、声の伴奏に使われてきた。

特に三味線は、声の表現を支えるために進化し、見かけと奏法とが多様化している。

 

伝統邦楽は継承している流派毎に固有の楽譜をもっている。そのため、共通な記譜法というものがない。これは、西洋式の総譜といったものが、声と伴奏楽器とを組合せて上演される曲目でも、無いことにつながる。

それでも共通の傾向はある。

・主に奏法譜*1

・奏法を覚えるための唱えごと*2が決まっていて、歌詞のように書いてある譜がある

 

伝統譜を電子化するという活動は、この、流派毎に決まっている記譜法に基づく印刷譜から計算機可読なデータを作成するという内容をもつ。

全く同じ内容を再現できればよいとするなら、電子写真に撮り、ページ順に閲覧できるように纏めることで達成できる。全く同じ内容を再現するとは、写真の拡大・縮小・編集の要領で楽譜の頁を編集すること、手書き文字の独特な字体もそのままの形で再現することを含む。

全く同じ内容の再現でに収まらない要件には、個々の要件に応じた工夫で対応する案がある。同時に、楽譜のもつ文書としての構造に踏み込んだ電子化法*3を考えるという案がある。但し、それが既存の技術で可能か、という問題はある。

いずれにしても、いろいろと試行して見当を付けるところから始めなければならないだろう。

 

上代の声楽譜例えば催馬楽譜と、能楽の音楽(謡曲)の譜とを比較する。謡曲も歌詞の脇に歌詞の唱え方を示す記号をもつ点では催馬楽譜と共通する書き方をしている。ただ、歌詞の唱え方を示す記号がかなり変化している。

催馬楽譜では一つのカナ*4複数個の線分から作られた折れ線がついて、折れ線が示す抑揚でカナを唱える。

謡曲譜では歌詞の唱え方を示す記号が一つの点と言ってよい位まで短い。*5また、催馬楽の場合、声は鼓の音と同期して進むが、劇場音楽である能楽は、動機の対象に舞が加わる。そこで、譜の上の余白に舞の型を示す図が入っている。

 

伝統邦楽は声の表現に様々な工夫がある。語り物というジャンルが示すように、歌うだけでなく語る方にも重点が置かれている。西洋音楽では逆で、アリア(歌)とレシタティーヴォ(語り)とを並べると歌の方に比重がある。シェーンベルクの創始した語る旋律(シュプレヒシュティンメ)はある意味、伝統邦楽の声の表現と似た方向性がある。ワルソーの生き残りでは語り手のパートを、一本の線を引き時間軸とし、そこから大体の高さを示す位置に音符を描いて語りの抑揚を示している。琵琶譜のあるものに、琵琶の弦に対応する線を引いて音の高さを示し、対応する声の高さの位置に歌詞を書くというものがある。

*1:江戸時代になると、定量的に書かれた譜が出てくる。

*2:口三味線のような。

*3:XMLを適用するなどの。

*4:催馬楽譜では歌詞がカナで書いてある。朗詠譜では歌詞が漢字で書いてある。漢字の読みは複数のカナで書くので、折れ線の上に境目を示すカナが書いてある。

*5:黒ゴマのような形をしているので胡麻点ということがある。