狸系の里 シーズン2

はじめの一歩、二歩、散歩・・

音律を測定してみたい

音律という言葉は、ここでは、楽譜に書かれた音の実際の高さという意味で使っています。日本の音楽では、楽譜上は宮商角徴羽という五つの音が使われているように書かれています。ただ、楽譜は目安という位置付けにあるので、実際の演奏で聞く事が出来る音は違っているかもしれません。例えば、ビブラートのような修飾がついていたら、修飾する音はどの範囲から取るか。実際、上代歌謡を五線譜採譜した印刷物を見たことがあるのですが、その解説によれば使われている音は、四つの補助的な音と合わせて九つとしていました。

 

ところで、五線採譜があればそれ以上の何がいるのか、と思いたいところだけれど、次の問題があります。音の高さは五線譜から読みとれる高さでいいのか?五線譜には五線譜の約束事があり、一点ラの音を430Hzとして、各音符を(不等分)平均律で調律して、決まった高さの音が書いてある事になっています。この約束事に無条件に従ってよいか。言葉で物事を書きとめる以上は避けられない問題なのですが、対象と言葉とは整合しているのか?そこで、どうしても、書籍を読むには前提となる世界を了解しておかなければならない、ということになり、了解する手段としていろいろと計測してみたくなるわけですね。これは元物理屋さんの性。

 

伝統邦楽の音律は三分損益法で決まります。三分損益法は、基本となる音を、管あるいは絃で決めます(以下は管として説明)。この管から三分の一を取り去ると、振動数が1.5倍(3/2倍)の音が鳴ります。三分の一を加えると、振動数が0.75倍(3/4倍)の音が鳴ります。そこで、基準の音の管を選び、ここから三分の一を取り去った管を作り、その結果に三分の一を追加した長さの管を作り、・・・という操作を繰り返して基準の音を出す管を作ってゆきます。そうすると、基準の音をドとすると、順次、ソ、レ、ラ、ミ、・・・、の音が作られる・・

はずなのですが、この操作、12回を越えて何回繰り返しても、数オクターブ上のドには絶対に辿りつけません。理由は、数オクターブ上のドの音の振動数は元の音の振動数νと2のオクターブ数乗(ともかく整数)とを掛けた数字になりますが、管の振動数は3/2をいくつかと3/4をいくつかを掛けた数になります。結局奇数/偶数を掛ける事になるので、この数が整数になる事はない。

結局、上に書いたソ、レ、ラ、ミ、・・・の音は、三分損益法によるソ、レ、ラ、ミ、・・・であり、五線譜で書きとめた時の前提となるソ、レ、ラ、ミ、・・・と(ドの音を合わせた時ですら)一致する保証はない、ということになります。言葉で説明するときに、前提に関する理解が違っていると、全体に関する理解が違ってしまう一例ではあります。

 

ところで三分損益法はピタゴラスの音階と呼ばれている音階と同じものになり、「音階」という言葉がついていると現在の音階の先祖と思いたくなるのは山々なのですが、現在の音階と直接繋がるものではありません。現在の音階に繋がるのは、アリストクセノスによる二つの四弦琴を使った音階で、これが教会旋法につながり、不等分平均律(半音が二種類ある)に繋がり、更に現在の等分平均律に繋がるという音階の歴史があります。現在の五線記譜法は等分平均律の一つ前の、不等分平均律とよく調和する記譜法だそうです。そうなると、日本の音楽を五線採譜した結果は、日本の音楽の約束に従って読まないと本来の内容を読みとれないことになるのですが、五線採譜をした資料には調律法という形で音の高さが書かれています。ただこれは、実際の楽器をもち、調律法を知った人でないと取り付く島がない。

 

という訳で測定してみたくなるのですが・・

 

日本の音楽は長期にわたり専門家集団により継承されてきたので、素人が安直な計測をして、専門家集団の了解なしに計測結果の解釈を安易に公開できるものではないことは確かです。できる範囲は可能性を示す所までであり、本番の計測は継承してきた専門家集団が行うのが筋なのだろうなとは思いつつ。