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狸系の里 シーズン2

はじめの一歩、二歩、散歩・・

始めの一歩

狸系の目

ここ数年、音楽と情報科学との係わりをあれこれ、とりとめもなく書き続けてきた。そもそも何をしたいのか、というレベルの話なので形もなにも無かったのだが、八回書き換えればいい加減に形が整ってくる。纏めと附録の目次を見ていて、これがそのまま具体的な内容の要約になっている事に気付いた。あとはこの線に沿って進む事になる*1

 

7章まとめ

情報民族音楽学と呼んできた活動は、音楽をありのままに記録することを目的とする。

7-1)ありのままの記述とは、音楽を継承するコミュニティが音楽に対して持つ常識を、その常識に忠実に記述することを言う。音楽に関する言葉づかいは、音楽の歴史にそって、コミュニティの中の常識を指すようにできていると考えられる。そのため、コミュニティの内側でのコミュニケーションと、コミュニティを横切るコミュニケーションとでは、言葉づかいが変わる事を想定しなければならない。

7-2)工学的な意味でのコミュニケーションは、記号の交換に係わり、記号が指す意味の交換には係わらない。コミュニティを横断するコミュニケーションは、コミュニティが歴史的に形成してきた意味づけが関連するという意味で、異文化交流と似た側面をもつ。

7-3)音声認識/音声理解技術は、工学的な意味でのコミュニケーションの範疇に含まれるも、言葉の意味の扱いが係わる。1970年代の音声認識/音声理解技術は論理的な基礎の上で言葉の意味を扱う(意味を扱う理由が主に探索空間を制限するためであったとしても)方向で試行していたが、意味を扱う一般的な枠組みを実現できなかった。1980年ころ以降は、大語彙と統計処理とを基礎とする方法が音声認識/音声理解の主流となる。

7-4)コミュニティが維持し発展させている常識(これをデータ化したものをDOMAINと呼んでいる)は、コミュニティの活動を通して自然に導入され、論理的な基礎に対する自然な制約を与える。コミュニティの活動を時間的に追って変化を記録することは、音楽を記録する上で大切な作業であるが、同時に時間的な軸を導入することにより、使える語彙の大きさが制限される。以上から、音楽の資料を収集する基礎には、論理的な方法を再評価することが望ましい。

7-5)情報民族音楽学という用語に現在は意味がなく、すべての内容が将来の課題となる。当面は実施のための基礎作りを行い、基礎が出来た段階で、記録の対象に選んだ音楽と並行する活動をとおして記録を薦める事になる。実施のための基礎作りには次のことが必要になると考えている。

  1. ともかくデータの事例を作る事。伝統邦楽譜は音楽の流派毎に特有の記譜法が使われている(附録1)ので、典型的な例をデータ化して、必要な技術を選択する。
  2. 個別の例題について、具体的な問題点を収集する事。催馬楽譜「安名尊」の墨譜をWordで書きなおした例(附録2)を作ってみた。構造があることから標準的な文書ファイルでなく、頁単位に図形として描画している。折れ線のように描かれている音の抑揚をWordの図形の範囲で表現する方法、手書きの墨譜に書かれた文字・図記号を包摂する基準と方法に問題点があった。図形として描画する方法を採用せず、XMLのような記述言語を設計するという方法があり得るが、この場合、設計・実装・維持の全てに渡って開発者に責任がかかる。
  3. 古楽譜に書かれている音の名前を具体的な音としてどう再現するか、という問題は、再現者の見解が係わる事がある。催馬楽については、基礎とする音階(旋法)が陰か陽かという問題があると言われている。これは、再現された音を五線譜に書くときに、音に半音の違いが生じる結果をうむ。再現された音を記録する方法は、記録する方法がもつ枠組みの影響を受ける。民族音楽を五線譜で書きとるための追加記号が考案されている(附録3)が、この追加記号のもつ内容については明示されない。結果として、音が判らないと採譜結果を理解できないことがあるのではないかと思われる。
  4. 附録4以降は基礎づくり以降に関連する可能性のある分野(附録4、附録5)と、筆者の個人的な背景(附録6)とを収録している。

 

以下、目次の抜粋:

7章まとめ

7-1.コミュニケーションと意味との関わり

7-2.シャノンの通信理論

7-3.音声会話の機械認識

7-4.DOMAINが保持する意味と統計モデルとの適合性

7-5.次の課題

附録1 伝統譜の形

附録2 WORDによる催馬楽譜の作図結果

附録3 2章附録 民族音楽に固有の現象を記述するための追加記号

附録4 4章附録 木言語と木言語変換系

附録5 人文系情報処理技術に関連する文献資料

附録6 予備的調査の結果

附6.1 音声信号分離に関する研究

附6.2 兼常清佐日本民謡研究

*1:とはいえ、いろいろな無理が重なってきているので、ここに書いたように進められるかについてはちょっと悲観的になっている。