狸系の里 シーズン2

はじめの一歩、二歩、散歩・・

[情報民族音楽学研究]“読書(2)_語句の収集 階名と音名”の補足

OneDriveには読書(2)として掲載していたもの。ここでは前回、音程について補足した版を作る、と書いていたもの。主な参考書は次の3冊。

1)福井昭史、よくわかる日本音楽基礎講座、音楽の友社(2006年8月10日)[ISBN427630704X]

2)岩田宗一、声明は音楽のふるさと、法藏館(2009年6月20日)[ISBN9784831862143]

3)芝祐泰、五線譜による雅楽総譜  巻一 歌曲編、カワイ楽譜オンデマンド出版

 

下表のうち音程を除く項目は上記参考書1の127頁にある表「神楽歌の音律構成」に基づいて作表した。

音程欄は、隣接する2音間の音程を示す。音程の単位は1オクターブを300等分するサバールによった。(1サバール=4セント)オクターブ上位の壱越に係わる音程は、三分損益法で計算した305.8632を使う場合で示し、括弧の中の数字は下位の壱越のオクターブ上(300サバール)との音程を示した。階名欄の音程を計算する方法は表に続けて示してある。

律度

音名

階名

均分平均律の音程

文字

読み

音程

文字

音程

五線記号

音程

壱越

いちこつ

d

断金

だんきん

28.4202

変商

22.557

#d

25

平調

ひょうじょう

22.557

28.419

e

25

勝絶

しょうぜつ

28.4202

嬰商

22.5906

f

25

下無

しもむ

22.558

 

 

#f

25

双調

そうじょう

28.4129

律角

50.9448

g

25

鳬鐘

ふしょう

22.557

変徴

22.557

♭a

25

黄鐘

おうしき

22.557

28.4202

♮a

25

鸞鏡

らんけい

28.4202

変羽

22.557

♭h

25

10

盤渉

ばんしき

22.557

 

 

♮h

25

11

神仙

しんせん

28.4202

嬰羽

50.9769

c

25

12

上無

かみむ

22.557

 

 

#c

25

壱越

いちこつ

28.4202

(22.557)

(50.9775)

d

25

 

音程の数値は、音楽理論が規定する音の振動数から計算した。

音名欄については、音の振動数は三分損益法(順八逆六法)で決まるものとして計算した。三分損益法は、基準となる音(dと書く)から始めて、まずその5度上の音をとり(振動数3/2倍)、その結果の4度下の音を取り(振動数3/4倍)、その結果の5度上の音を取り、その結果の4度下の音をとる、という操作を定める。各音の振動数は(3/2)n(3/4)mdで決まる。奇数3を偶数2又は4で除して割り切れることはないので、三分損益法で決まる音には基準音dのオクターブ上の音はない。

階名欄については、芝祐泰編著、五線譜による雅楽総譜 巻一 歌曲編の8頁の構成図に従うものとして計算した。同書に拠れば、階名欄の音は次の構成手順によって構成される。この構成手順で決まる音の高さを使うと音程が計算できる。

  1. a) 五つの正声を次で構成する。

宮音を壱越とする。

宮音の5度上の音を徴とする。

宮音の4度上の音を律角とする。

律角の4度上の音を嬰羽とする。

嬰羽の5度下の音を嬰商とする。

  1. b) 二つの変声を次で構成する。

嬰商の4度上を変羽とする。

変羽の5度下を変商とする。

  1. c) 二つの臨時声を次で構成する。

徴の4度下の音を商とする。

変商の4度上の音を変徴とする。

以上

 

ところで、正声の五つの音の性質については次が参考になる。次の表は、岩田宗一「声明は音楽のふるさと」(法蔵館)、本文最初の位置に置かれた中表紙に置かれた写真から作成した。

 

呂 大由

十二律ハ 黄鐘管

笙    九竹

横笛   六穴

律ハ スクム

簫    六穴

琴    三八中絃

琵琶   工絃

呂 スクム

十二律  大旗管

笙ハ   乚竹

横笛ハ  千穴

律ハ ソル

簫ハ   四ノ穴

琴    ニ七為絃

琵琶   七絃

呂 スクム

十二律  中ロ管

笙    十竹

横笛   上穴

律 直

簫    ユ穴

琴    一二五十絃

琵琶   一絃

呂 大ユ

十二律  南呂管

笙    一竹

横笛   中穴

律ハ スクム

簫    ユ穴

琴    一五十絃

琵琶   ク絃

呂 スクム

十二律  林鐘管

笙    乞竹

横笛   タ穴

律 ソル

簫    五十穴

琴    六十絃

琵琶   乚絃

巳上図暫一越調之五音庄之

(上の図は壱越調の五音を示すものです)

 

表で宮商角徴羽は階名、呂と律は旋法の種類、三つ目の欄は(壱越調での)音の高さを楽器の構えで指定している。ここで呂律の欄に書かれた大由、スクム、ソル、などは、階名で指定された音が固有の修飾法をもっていることを示している。音は決まった高さに維持されるだけでなく、洋楽で言うビブラート風に揺れるように歌われることがある。それぞれの用語の具体的な歌い方は口伝で伝わるとしても、揺らぎがある場合にはとり得る音が指定されなければならない。結果として、5正声と、これに加えて2変声、2臨時声が必要になる。

 

声明関係の書籍に使われていた写真から作成したので、歌謡に当てはまるか否かについては別途確認が要る。しかし、一つの音に固有の修飾方法が決まっているという特徴は見て取れる。つまり、正声の五つの音は、五線譜の音符のように、高さ・長さ・強さを指定するだけでは特徴を指定しきれず、修飾法を合わせて考慮しなければならない。