狸系の里 シーズン2

はじめの一歩、二歩、散歩・・

情報と社会あるいはソフトウェアとコミュニティ

情報社会科学という言葉について、一つの定義付けを試みる。

 

情報技術の成果というと、ソフトウェアが挙げられる。ソフトウェアはある計算環境で動くものであり、これまでは、ある汎用の計算環境を想定してその上で動くものとしていた。最近では、ソフトウェアの一部をハードウェアに置き換えて実装することもあるから、ここで言うソフトウェアはソフトウェアとハードウェアが協調的に動作するように実装されているものまで含むことにする。

 

ソフトウェアはあるコミュニティで行われている業務を助け、そのコミュニティのメンバーが行う作業を置き換えるために制作する。このことから、アルゴリズムとソフトウェアトの間に次の違いが見つかる。

アルゴリズムはそれ自身が閉じた形で定義される計算手順。

‐ソフトウェアは対象とする業務と関連づけて定義されたアルゴリズム

ソフトウェアは定義に沿って、情報と社会とを関連づける。この関連づけは、図式的にはこんな形にかける*1

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この図式は情報科学の側から見ているので、コミュニティからの一つの要求に対するソフトウェア単品の制作という図式になっている。以下では焦点を当てる対象をコミュニティに変更した結果として現れる研究分野を考える。

 

コミュニティ側には、要求したソフトウェアを目的に沿って使い続ける業務がある。この業務は時間とともに発展し、それに伴って次の事象が起こる。

‐ソフトウェアの運用によってデータが作成され蓄積される。

‐新しいソフトウェアに対する要求が発生する。

‐それまでに導入し稼働しているソフトウェアとの協調作業が発生する。

このような事象に問題を起こさず対応するためには、コミュニティ側にも情報処理に関する課題が発生し、これを解決する技術が必要になる。

 

コミュニティ側に発生する情報処理に関する課題を把握するには、コミュニティ側の活動を全体として把握することが必要になる。情報処理と関連づけるためにコミュニティ側の活動を把握するという課題からは、情報と社会との係わりのあり方を研究する一つの課題が導かれると期待される。これが均質な単一の課題となるかについては自明ではない。

情報処理関係の活動が均質な単一の課題としてコミュニティ側に定着している例としては次がある。

‐コミュニティ側の活動が企業活動の場合には、既に、業務プロセスの改革(Business Process Re-engineering、BPR)、企業資源の計画(Enterprise Resource Planning、ERP)などの名称で企業活動の全体像を捉える方法が提案され、実践されている。

‐コミュニティ側の活動が自然科学分野の研究活動である場合には、その分野の基礎理論からコミュニティの活動の基盤に関する技術が共有される。この基礎理論に関する活動の形で活動の全体像を捉えることが考えられる。具体的には、数式モデルの解析、現象を再現するための設備の設計と実現、現象を観測するための設備の設計と実現などの活動がある。

 

これに対して、コミュニティ側の活動が人文系分野の研究活動である場合には、一つの分野内での活動が、独立したサブコミュニテいが互いに緩く関連しあって行われるという傾向が見られる。これは、人文系分野の研究活動が、文献・資料の精査の結果として仮説が導かれ、仮説群の中から信頼できる仮説を選びこれを定説とする、というような、文献・資料を対象として精査し、その結果から昨日的に結論を導くという方法に沿って行われることによる。

文献・資料とソフトウェアとの係わりとしては、文字の並びによって構成される文書資料(テキスト)について、テキストデータベース作成、テキスト中に特定の語句が現れる位置を調べる語句検索、特定の語句の出現頻度解析(Oxford Concordance Program、OCP)、特定の順序で結合した語群の出現頻度解析(マルコフ過程との関連でN-gram法)などが行われている。また、ある種のカリグラフィを電子化する技術についても研究例がある。

 

ソフトウェア技術の観点からは、テキスト、音響、並びにイメージ及び図を統合する、複合文書技術が発展している。筆者は、複合文書技術と関連する情報技術を総合的に利用する分野として情報技術と音楽学とが相互に関連を調べ、音楽に係わるコミュニティの中に、情報技術と係わる新しい研究分野を拓く可能性を調べるという活動に興味をもっている。

民族音楽学の分野では、数値計算による信号解析法を音楽分析に適用した例が電子計算機の登場以前に行われている(兼常清佐日本民謡研究)。兼常の研究は数値計算による信号解析法を基礎としており、情報技術の導入法が見易い。但し、最新の情報技術を前提とすれば、信号としての音楽がもつ特性を抽出し、結果を分析しグラフ化し、音楽の特性に適合する専用の記譜法を設計して、音と楽譜と文書資料との組み合わせを一つのデータとして保存する、といった処理も可能になる。このような処理を、五線譜のような既存の記譜法によらず、音楽に忠実に行うことができれば、音楽学のコミュニティの一角に新しい研究課題を定義することもできるのではないか。

 

以上により、「情報民族音楽学」という言葉が指す内容として、問題を引き起こすことなく情報関連の知見を民族音楽学の分野に導入し、情報処理技術を利用しつつ活動を行う民族音楽学、という定義を描いてみた。

*1:制作の中にある箱の間に→を書かないのがミソ。